カンボジア人質事件、最悪の判断 | 軍事作家 橋本 純の反戦ブログ

カンボジア人質事件、最悪の判断

シエムレアプは、カンボジアでも治安のいい地域です。今回の事件は、強盗による人質で、テロでも何でもありません。だから、このような悲劇になった事は、やはりカンボジア警察の手腕と、犯人がおそらく薬物を使用していたためであろうと思われます。

ネゴシエーションの基本は、相手に威圧感を与えないことです。カナダ人の幼児が射殺されたのは、明らかに警察の威圧に原因があります。

突入の判断は、現場としては適切だったとしか言えないでしょう。これ以上の犠牲を増やさないことは、治安維持として最低の義務である事を心得ていたと言う意味では。

犯人は、不況による失業者です。安易に強盗に走ったとは言え、そこにはまだ、復興をなし終えていない国の現実があります。

アンコールワット修復などで観光客も戻り外貨が入り、商業の活性化は進む一方、産業特に工業分野は立遅れが目立ちます。必然でGDPはあがらないと言う事になるわけです。

結果的に地域格差に起因する犯罪(貧困による犯罪)が、カンボジアでは最も多いわけです。生きるための置き引き、すり、強盗。

そして、かつてのゴールデントライアングルの一角であることから、麻薬が安価で手に入る事も、犯罪を助長させていますし、まだ未回収のかつての反政府勢力の武器がマーケットに溢れています。(激安で)

もし、今回のHン人たちが押し入った時、教師と生徒がいなければ。普通の強盗事件に終わったでしょう。

ニュースが錯綜しましたが、最初の身代金要求金額が1000ドルだったと言う事を、考えて下さい。

カンボジアにおける1000ドルは、大金なのです。日本では10万ちょっとでも、向こうでは1年は楽に遊んで暮らせる金額です。

値段が釣りあがったのは、人質の人数と無計画性の為でしょう。そして、警察の威圧もまた、緊張を高めさせ、犯人を強気にさせたと思われます。

アメリカの警察なら、距離を置いて、持久戦を狙い、差し入れなどで犯人の懐柔から説得を始めたはずです。まず、話し合う態度を示すことが人質事件の基本ですから。

それが、今回出来なかったのは、犯人も警官も、軍隊やゲリラ経験者だからでしょうね。

徴兵制の弊害と言えるかもしれません。特に、犯人たちは、軍隊を終わって警備会社に入って、すぐに失業したようなものです。(ただ選抜徴兵なので、全員ではないかもしれませんこと憶測と示唆しておきます)

失われなくていい命が失われた事件。

それが今回の事件でしょう。犯人にも、同情すべき点はあります。

宗教の復興したカンボジアでは、この事件の犠牲者を大変悼んでおります。無論、犯人を含めて。

殺人事件だけで見れば、カンボジアは日本よりアメリカより、治安のいい国なのです。それだけ命の重さの判っている国だからです。全ての国民が、家族の誰かをポルポトに殺害された国です。人を殺すことの悲しみを、日本人の数千倍は心得た国と言えるでしょう。

それだけに、今回の結末は残念で仕方ありません。

改めて犠牲者に哀悼の意を捧げます。

カンボジア治安当局に過ちを繰り返さないことも切望します。